全体概要
対象地域 |
利根保健医療圏(7市2町) |
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構築時の主な関係者 |
埼玉利根保健医療圏医療連携推進協議会(利根保健医療圏7市2町・利根保健医療圏4医師会等) 埼玉県 |
費用負担 |
構築費用:約490,520千円 ・地域医療再生臨時特例基金(地域医療再生基金) <負担者> ・埼玉県 更新費用:約310,500千円 ・地域医療介護総合確保基金 <負担者> ・埼玉県 運用費用: 約33,520万円(年間) (保守費用約22,280万円・運営費用約11,240万円) <負担者> ・利根保健医療圏7市2町 ・参加施設 |
規模 |
登録患者数:3万361人(利用者カード発行数) [平成30年2月末現在] 参加機関数:106施設 ・中核病院:9施設 ・県立病院:2施設 ・病院・診療所:90施設 ・薬局:29施設(全施設開示・参照を行う) ・検査機関:5 [平成30年2月末現在] |
病病/病診連携以外のサービス | 検査予約・診療予約、地域医療連携パス(糖尿病)、健康記録・救急参照 |
時期 | 実施内容 |
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平成22年度 | 構築計画スタート |
平成23年度 | 協議会で詳細検討・事業者選定 |
平成24年3月 | 地域医療ネットワークシンポジウム開催(以後、各市町持回りで毎年開催) |
平成24年4月 | 仮稼働スタート |
平成24度 | 運用開始 |
平成30年4月~ | システム更新予定 |
取材対応者
大橋 良一 加須市長
加藤 誠 一般社団法人北埼玉医師会 会長
渡辺正男 埼玉利根保健医療圏医療連携推進協議会 事務局長
栗原智之 埼玉利根保健医療圏医療連携推進協議会 システムワーキンググループ・リーダー
長原光 社会福祉法人恩賜財団済生会栗橋病院 院長
遠藤康弘 社会福祉法人恩賜財団済生会栗橋病院 前院長(済生会栗橋病院 健診センター長)
荒木譲二 加須市立北川辺国保診療所長
概要
埼玉利根保健医療圏地域医療ネットワークシステム(愛称:とねっと)は埼玉県北東部に位置する利根保健医療圏(行田市・加須市・羽生市・久喜市・蓮田市・幸手市・白岡市・宮代町・杉戸町の7市2町・人口66万人)で展開される医療情報連携ネットワークである。

利根保健医療圏は埼玉県の北東部に位置する

埼玉県は、人口10万人あたりの医師数が160.1人と全国最下位、一般病院病床数も同46位(厚生労働省調査・平成28年)である。さらに、診療科別に見た場合には、産婦人科・外科の医師数が全国最下位であり、救急時や周産期医療における医療資源の最適化が課題となっていた。
中でも、埼玉県北東部に位置する「利根保健医療圏」は県内の10医療圏の中で人口あたり医師数が最も少なく、限られた医療リソースを有効活用するため、医療体制を再構築する必要に迫られていた。ここで利根保健医療圏の中心部に位置する加須市が中心となり、地元医師会とともに立ち上げたのが埼玉利根保健医療圏地域医療ネットワークシステム「とねっと」である。
「とねっと」は、中核病院・検査施設が中心となって医療データを共有し、利用者登録をして発行される「かかりつけ医カード」を各医療機関に提示することで、共有データを閲覧する仕組みである。利用時の同意書では、救急搬送時におけるデータ利用の許諾をとっており、救急隊員は専用タブレット端末を使ってデータの一部を閲覧できる。教育委員会と連携し、食物アレルギー等の持病を持つ子どもの親に登録を促して救急搬送時に備えるなど、一般住民にとって診療に役立つ機能を備える。
行政が中心となって構築・運営しているため、住民への広報や救急・教育委員会等との連携がスムーズに進んでおり、平成29年11月末で利用カード登録者は3万人を超えた。
スタートから5年が経過する平成30年度にシステム更新を実施し、システム事業者を変更した。さらに、このタイミングで調剤薬局の参加やカードをICチップ化して紐付け作業の簡略や迅速な救急参照、更には健康管理アプリとの連動で利用者の健康情報登録を促進するなど施設・利用者双方の利便性を高める機能を拡充する。
特徴
・子どもの食物アレルギー対策や救急車内での患者情報参照等、医療機関の枠を超えた多様な利活用の実現。
・30,361人の参加住民数と、全国トップレベルの住民参加を実現。
・行政が積極的にバックアップする体制の構築による、安定的な運用とシステム更新の実現。
・継続的な利活用拡大に向けた議論と効果の可視化による、大規模なシステム更新計画の具体化。
成功要因
・情報共有に関する議論が医療機関のみで進むことが多く、結果的に「医療機関のみ」「医療情報のみ」の情報共有に留まる事例が多い。本地域においては、医師会・行政・中核病院・埼玉県等で構成される「協議会」や参加する7市2町で構成される「行政連絡会議」等の多様な会議体を設けた。その結果、医療機関外での利活用も積極的に議論がなされ、救急や健康記録など多方面での利活用が図られた。
・住民参加に向けた施策を十分に取らずに医療機関頼りとなり、低い参加状況に陥ってしまう事例が多い。本地域においては、行政による積極的な広報や各市町持ち回りのシンポジウム開催による住民周知、事務局による健診会場での呼びかけなど、医療機関頼りでない住民参加促進活動を行った。その結果、多くの参加住民を得るに至った。
・複数の自治体に跨る場合、行政間の意思統一が難しく、行政の支援を十分に受けづらい状況となる場合が散見される。本地域においては、「全国的に見て非常に厳しい医師不足」という危機感のもと、行政間で意思統一が図られ、最終的に協議会の会長を加須市長が担う等の行政による強力なバックアップ体制が構築された。これにより、特に財政面・運営面において安定的な運用を実現するに至った。
・ネットワークの構築が完了した後、利活用の拡大に向けた議論の継続が課題となる地域が散見される中、本地域においては、月平均3.3回に渡って議論が継続されてきた。加えて、「とねっと登録者の搬送1,560人の内、活用1,264人」「糖尿病連携パス適用患者338人」等、効果の可視化が積極的に行われてきた。その結果、国や埼玉県に対して医療情報連携ネットワークの意義と、システム更新によって実現すべき課題解決の方向性を明確に示すことができ、大規模なシステム更新計画の予算化の目途を立てるに至った。
ネットワーク構築時の苦労
・二次医療圏内でも各自治体・医師会ごとに問題意識が異なり、特に住民が隣接する他医療圏に向かう頻度の高い区境の自治体とのすり合わせに苦慮した。
・自前のシステムで管理が完結することが多い大病院はネットワークのメリットを感じにくく、参加に際しての意義の理解や合意形成に苦労する場面があった。
・利用者の獲得については、加須市職員は基本的に全員加入など、身近なところから数を増やし、市民イベントや広報紙などできめ細かくPRした。