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あじさいネット(平成16年稼働)
特定非営利活動法人 長崎地域医療連携ネットワークシステム協議会(長崎県長崎市)
095-844-1111 公式ホームページ

※平成29年2月時点
(ただし、登録患者数や参加機関数は、平成28月11月15日時点の情報を掲載)

計画Step

1.地域課題、要求事項の抽出

(1)地理的特徴

長崎県は、九州の西北部に位置し、東西213km、南北307kmにおよぶ県域である。佐賀県と陸接しているほか、有明海を隔てて熊本県、福岡県とも近い。陸地は県域の7%程度であるうえに平坦地に乏しく、いたるところに山岳、丘陵が起伏している。また、長崎県は全国一離島を有する県であり、県の総面積の約4割を占めている。有人島は離島振興法指定で55島(総有人島数は74島)ある。

長崎県には、以下の8つの医療圏がある。

図表:二次医療圏
# 圏域名 構成市町村名
1 長崎医療圏 長崎市、西海市、長与町、時津町
2 佐世保県北医療圏 佐世保市、平戸市、松浦市、佐々町
3 県央医療圏 諫早市、大村市、東彼杵町、川棚町、波佐見町
4 県南医療圏 島原市、雲仙市、南島原市
5 五島医療圏 五島市
6 上五島医療圏 新上五島町、小値賀町
7 壱岐医療圏 壱岐市
8 対馬医療圏 対馬市
出所:第二次長崎県医療計画(平成25年3月)
図表:あじさいネットの対象地域(地理・交通)
図表:あじさいネットの対象地域
出所:長崎県企業誘致ガイド
(2)医療需要

長崎県全体では、人口は約143万人、高齢化率(65歳以上人口)は26.0%(いずれも平成22年現在)である。特に上五島医療圏、五島医療圏、壱岐医療圏、県南医療圏では高齢化率が3割を超えている。

図表:各医療圏の人口および高齢化率(平成22年現在)
長崎県 長崎県二次医療圏
長崎
医療圏
佐世保
県北
医療圏
県央
医療圏
県南
医療圏
壱岐
医療圏
対馬
医療圏
五島
医療圏
上五島
医療圏
人口 1,426,779
547,587
334,750
270,050
145,063
29,377
34,407
40,622
24,923
高齢化率 26.0% 24.7% 26.7% 22.8% 30.2% 31.8% 29.5% 33.4% 34.6%
出所:日本医師会 地域医療情報システム

受療率は、入院患者1,865(全国1,068)、外来患者6,492(全国5,784)であり、いずれも全国の受療率を上回っている(平成23 年の厚生労働省患者調査)。

入院状況(一般病床)は、患者が自宅のある圏域内の病院に入院している割合は、長崎医療圏、佐世保県北圏域では90%超である一方、県南医療圏、上五島医療圏は50~60%台と低い(長崎県医療計画(平成25年3月版))。他圏域への入院割合は、県南医療圏が県央圏域に35.0%、上五島医療圏は長崎医療圏に20.9%と高い。また、診療所の入院状況も病院とほぼ同じ傾向である(長崎県医療計画(平成25年3月版))。

(3)医療供給

長崎県全体でみると、医療機関数、医師数ともに比較的充実している。

平成21年長崎県医療統計によると、人口10万人あたり比較で、病院数は、県全体11.5、本土(離島以外)11.2、離島13.8であり、全国平均6.9を上回っている。また、診療所数についても県全体100.1、本土101.5、離島84.4であり、全国平均78.1を上回っている。

ただし、離島地域において格差は存在しており、長崎県は離島・へき地診療所に対する医療支援に取り組んでいる。離島・へき地医療支援センターの設置、常勤医師の派遣、代勤医の派遣、ICTを活用した医療支援、へき地医療従事者に対する研修、遠隔診療支援などが実施可能な病院を「へき地医療拠点病院」として指定し、ヘリコプターによる医師搬送事業支援などを行っている。なお、この離島画像診断支援システムも平成25年よりあじさいネット上で運用している。

医療従事者は、離島に比べて本土に偏在している。長崎県医療統計によると、人口10万人あたり比較で、平成22年は、医師は県全体で283.0人、本土294.8人、離島165.5人であり、全国平均228.3人を本土は上回っている一方、離島は下回っている。薬剤師も同様に、県全体で152.5人、本土156.4人、離島113.7人であり、全国平均154.3人を本土は上回っている一方、離島は下回っている。一方、看護師は県全体で1,702.6人、本土1,742.9人、離島1,299.0人であり、全国平均1089.9人を本土、離島ともに上回っている。

二次医療圏別にみると、長崎医療圏には県唯一の大学病院があり、県全体の49%の医師が集中している。佐世保県北医療圏は地方都市型二次医療圏であり、佐世保市立総合病院、長崎労災病院、佐世保共済病院、佐世保中央病院など充実しており、上五島医療圏などからも患者が受診している。

県央医療圏も地方都市型二次医療圏であり、病院勤務医数は全国平均を超えており、充実した医療が提供されている。

県南医療圏は長崎県島原病院があるが、急性期医療に関しては県央医療圏に依存している。

五島医療圏、上五島医療圏、壱岐医療圏、対馬医療圏は離島医療圏でありながら、人口あたりの医療資源量でみると比較的恵まれている。しかし、ヘリコプターによる患者移送を含め、長崎医療圏、佐世保県北医療圏、県央医療圏との連携により、医療機能を維持することが求められる状況である。

図表:あじさいネットの対象地域
図表:あじさいネットの対象地域
出所:第二次長崎県医療計画(平成25年3月)

2.医療情報連携ネットワークの必要性の検討

大村市医師会では地域完結型医療を推進するため、医療連携システムの構築を検討していた。FAXを利用した情報共有からスタートしたが、いずれICTを活用したシステムが必要となると考え、平成15年5月、大村市医師会情報担当理事3名、独立行政法人国立病院機構長崎医療センター医師2名、市立大村市民病院医師1名からなる「地域医療連携IT化検討委員会」を発足させた。

当時、独立行政法人国立病院機構長崎医療センターは電子カルテの導入を検討していたため、同センターの電子カルテ情報を診療所と共有する仕組みについて、地域医療連携IT化検討委員会で検討を行った。

全国の電子カルテの共有事業がうまくいっておらず、その原因について検討した結果、
① 実証実験に終始してしまい運用ニーズを捉えていないこと
② 医療従事者間の協力体制が不十分であること
③ 診療所側のデータ入力負荷が高いこと
④ 初期費用が高く維持費用が出せないこと
と整理した。

この根底には、診療所側に病院に紹介するインセンティブがないこと、病院側は限られた医療供給体制を考慮すると診療所に逆紹介する必要性を認識しているが、高度医療が必要な患者を診療所の医師が診ることが難しいため逆紹介できないという問題があった。地域完結型医療を推進するには、これらの問題を解決する必要があった。

そこで、様々な症例や専門分野の知見やノウハウ、高度医療機器が集中している中核病院の診療情報を診療所と共有することで、診療所の診療機能支援と実質的な教育支援ができれば、両方の問題を解決することができると考えた。

診療所の医師向けにアンケート調査を行ったところ、病院が保有する情報を閲覧することに潜在的なニーズがあることが判明した。そこで、システムをどう使うのかについての講演会やパソコン操作教室の開催、医師会報への投稿を重ね、ICTによる病診連携の啓発活動を繰り返した。

3.事業概要の決定

(1)事業立ち上げの目的(コンセプト)

医療連携を活発化し地域完結型医療を実現するには、診療所がかかりつけ医の機能を果たすことが期待される。しかし、日本ではどの医療機関へ行くのかを患者が自由に選べるフリーアクセスのため、診療情報が地域に分散してしまい、特定の医療機関が一人の患者に対するかかりつけ医になるために必要な、かかりつけ情報を持つことができない。そこで、ICTを活用した情報共有による病診連携の活発化を目的に医療情報連携ネットワークを構築することを決定した。

特に、診療所がかかりつけ医機能を果たしやすくするため、病院による診療所の診療支援とあわせて、診療所の医療従事者の生涯教育支援を通じた地域全体の医療の質の向上を目的とした。

図表:あじさいネットのコンセプト
図表:あじさいネットのコンセプト
出所:長崎県におけるITを使った医療連携~あじさいネット見学資料~(一般)
(2) 事業内容

あじさいネットの対象地域は当初、大村市を想定し、上記目的を果たすため、中核病院を開示施設、診療所を閲覧施設として一方向で情報を共有する仕組みとした。診療所のパソコンが、病院の院外端末のように電子カルテ情報にアクセスできることを目指した。ただし、自主財源で構築し、運用することを前提にしていたため、構築費用を抑えるため必要最低限の機能で稼働開始し、必要に応じて機能を拡充していくことを想定した。

なお、開示施設は1施設で運用を開始したが、当初からいずれ複数の病院が開示施設として参加することを前提にシステムを構築した。開示施設を一つに限定してシステムを構築してしまうと、他の施設が開示施設として参加できなくなり、医療情報連携ネットワークの構築が逆に最適な紹介先が限定され(囲い込みネットワーク)、理想的な紹介逆紹介の活性化に逆行するからである。

(3) 参加機関の範囲

当初、地域医療の質の向上のため病院による診療所の診療支援や生涯学習支援のためのツールとしてあじさいネットを構築したため、参加機関は病院と診療所を想定していた。

しかし、医師記録が開示されることで病名や処方薬の変更理由がわかり、服薬指導の質向上につながるという薬剤師の理解が広がり薬局の入会が始まった。長崎市へ広域化した時期に薬局入会が相次ぎ、病薬連携が本格化した。このほか、平成26年から開始した在宅医療(多職種連携)での利用では、訪問看護ステーションや介護事業所も参加している。

(4) 共有できる情報項目

あじさいネットでは、電子化されている全ての診療情報を共有することができることを目指している。閲覧者の専門や関心によって必要とする情報が異なるため、「選択範囲を広くする」という考え方からである。ただし開示範囲は開示施設ごとに設定している。

また、診療所の診療支援機能や生涯学習支援に活用するため、あじさいネットでは処方や検査結果だけでなく、診療経過などが記載されている医師記録と看護記録を共有することを重視している。これらが開示されなければ、「おそらく価値は10分の1に下がる」(長崎地域医療連携ネットワークシステム協議会理事 松本武浩医師)と考えている。

図表:共有情報項目(国立病院機構長崎医療センターの例)
(○…共有している、×…共有していない)
情報項目 情報の共有の有無
国立病院機構長崎医療センター
患者基本属性
アレルギー情報
病名情報
カルテ情報 医師記載(2号用紙)
退院時サマリ
看護記録
看護サマリ
温度板
手術レポート
文書情報
オーダ情報 処方オーダ
注射オーダ
検体検査オーダ
放射線検査オーダ
内視鏡オーダ
生理検査オーダ
入院オーダ
外出先オーダ
転科・転棟オーダ
退院オーダ
食事オーダ
担当医情報
検査結果 検体検査結果
細菌検査結果
病理検査レポート
放射線画像
放射線レポート
エコー画像
エコー検査レポート
内視鏡画像
内視鏡検査レポート
生理検査結果
生理検査レポート
心電図波形
服薬指導情報
出所:長崎地域医療連携ネットワークシステム協議会提供資料より作成
(4) アクセス制御

医師、歯科医師、薬剤師、看護師、医療ソーシャルワーカーの5つの職種については、あじさいネットの全情報を閲覧する権限がある。それ以外の職種については、診療録閲覧以外の機能(周産期支援システムやセキュアメール等)および診療カレンダー上の多職種連携で利用される多職種による閲覧および記録が可能である。なお、職種によって閲覧できる範囲を変更できるため、運用を継続する中で利用範囲を修正している。またこの範囲についてはあじさいネット全体としての共通ルールを定めているが、この範囲の中で、開示施設ごとに閲覧権限を設定・変更することができる。

(5) 多職種連携

平成26年から、あじさいネットの機能拡充(後述)の一環として在宅医療での利用を開始した。あじさいネットの強固なセキュリティ基盤を使って多職種で安全に情報共有できる点がメリットである。モバイル端末iPadによる利用も可能とした。

在宅医療の場合は双方向で情報共有を行っており、主治医、副主治医、訪問看護師、ケアマネジャー、訪問薬剤師、看護助手など患者ごとに関わるスタッフ全員をグループ登録し、個々の携帯メールも登録することで、スタッフが訪問し記録を登録した時点で全スタッフの携帯電話にメールでその旨の通知がされる。これにより、患者宅を訪問する前に最新の患者の状況をスタッフ全員が把握することができる。入院中の記録も開示されるため、入院から在宅医療へと切れ目ない情報連携が可能となっている。情報の登録は、iPadのカメラをスキャナ替わりに使って簡単に行うこともできる。

図表 入院・外来・在宅の情報の共有
図表:入院・外来・在宅の情報の共有
出所:あじさいネットHPおよび長崎県におけるITを使った医療連携~あじさいネット見学資料~(一般)
図表 iPadカメラを使った簡単な診療情報入力
図表:iPadカメラを使った簡単な診療情報入力
出所:あじさいネットHPおよび長崎県におけるITを使った医療連携~あじさいネット見学資料~(一般)
(6) 拡充サービス

あじさいネットで構築した強固なセキュリティ基盤を活かして、平成25年から機能改善や機能拡充を行っている。病診連携、病薬連携のためには参加を希望しない医療機関が、別サービスの存在により参加を検討するきっかけとなっている。

図表 あじさいネットの新たな機能について
図表:入院・外来・在宅の情報の共有
出所:あじさいネットHPおよび長崎県におけるITを使った医療連携~あじさいネット見学資料~(一般)
図表:あじさいネットに拡充された主な機能一覧
開始時期 名称 内容
平成25年4月 離島・僻地画像診断支援システム 離島・へき地での脳卒中画像(CT,MRI)を伝送し、ヘリコプター搬送が必要かどうか判断する
平成25年4月 遠隔読影診断サービス 長崎大学放射線科がNPOの遠隔読影センターを運用しており、主として離島および僻地医療機関の遠隔読影を実施している
平成25年4月 糖尿病疾病管理 糖尿病患者の診療情報共有による診療支援
平成25年4月 TV会議・講演中継 あじさいネットの端末からのテレビ会議、カンファレンス参加。定期的な長崎県医師会の会議に利用され、長崎県医師会で実施される多くの講演や研修会が県内各地の群市医師会をサテライト会場として中継されている
平成26年3月 セキュアメール あじさいネット内のみで送受信できるウェブメールサービス(暗号化メール)
平成26年4月 多職種連携 多職種間の情報共有により在宅医療を支援
平成26年7月 周産期医療支援ネットワークシステムすくすく 産科で妊婦を登録、妊婦健診記録、分娩記録を管理し、安全な出産と健全な発育を支援
平成27年1月 ビデオ配信 主に医療従事者の知識・技能向上を目的として行われている研修会。講演会を録画、動画として視聴可能
平成28年1月 検査データ共有サービス 外注検査会社に依頼した検査結果をあじさいネット上で閲覧。他施設と検査データの共有、地域連携パスなどに必要な検査データの自動入力が可能
テスト運用中 病病連携 診療情報共有に加えすべての拡充機能をフル活用した病病連携支援
テスト中 地域連携パス 診療経過を共有する治療計画表の電子化
出所:あじさいネットOFF LINE通信Vol.18,19より作成
図表:TV会議拡張機能
図表:TV会議拡張機能
出所:あじさいネット運用講習会資料
図表:医療教育ビデオ配信
図表:医療教育ビデオ配信
出所:あじさいネット運用講習会資料
図表:周産期支援システム画面
図表:医療教育ビデオ配信
出所:あじさいネット運用講習会資料
図表:検査データ共有システム
図表:検査データ共有システム
出所:あじさいネット運用講習会資料
図表:地域連携パス画面
図表:地域連携パス画面
出所:あじさいネット運用講習会資料

4.事業運営主体の組織の設置

(1) 運営主体の組織

地域医療IT化検討委員会において、医療情報連携ネットワークの運用方法やシステム化方針を関係者間で検討し、稼働後に運営主体となる組織を設置することを決定した。平成16年7月、前大村市医師会長を会長、開示施設である国立病院機構長崎医療センター、市立大村市民病院、閲覧施設を主な構成員とする「長崎地域医療連携ネットワークシステム協議会」を組成した。具体的な検討は、月1回開催される運営委員会で行った。

長崎地域医療連携ネットワークシステム協議会は、病院と診療所が対等に検討できる場として運営した。その結果、開示施設の情報提供病院も利用側の診療所医師のいずれも有用な運用の検討ができた。

運用開始から約1年後の平成17年10月、安定した運営と将来的な補助金等の受け入れも意識し、運営主体をNPO法人化した。

図表:運営主体に関連するプロセス
時期 実施事項
平成15年5月 地域医療連携IT化検討委員会が発足
平成16年7月 長崎地域医療連携ネットワークシステム協議会が正式発足
平成16年11月 あじさいネット運用開始
平成17年4月 長崎市医師会において「地域医療ネットワーク推進部会」が発足
平成17年10月 長崎地域医療連携ネットワークシステム協議会を特定非営利活動法人化
平成19年11月 長崎市医師会において「地域医療ネットワーク推進部会」を発展させ、診療所医師(医師会医師)と閲覧施設の医師(勤務医)が対等に議論する場として「あじさいネット準備委員会」発足
平成20年10月 総会において、事務局を大村市医師会から長崎県医師会に置くことを議決、事務局移転
平成21年4月 長崎地域においてあじさいネット運用開始
出所:あじさいネットHPおよび長崎県におけるITを使った医療連携~あじさいネット見学資料~より作成

NPO法人の会員種別は、正会員、準会員、ポータル会員、賛助会員、特別会員、特別準会員、名誉会員の7種類である。正会員には個人会員と団体会員がある。

事務局は当初大村市医師会に置いたが、長崎市での運用開始に伴う参加機関の広域化を見据え、平成20年10月に長崎県医師会に移転した。事務局には長崎県医師会からの派遣者を含めて6名配置されている。

このほか、あじさいネットの機能改善や機能追加を担う実働部隊として設置した「あじさいネット拡充プロジェクト室」がある。現在は、室員6名(室長、専任5名)で、広報誌「あじさいネット OFF LINE通信」の発行(年4回)を中心とする広報と新規会員のあじさいネットの各サービスへの登録作業を担っている。

図表:会議体の実施内容
組織 構成員 機能 開催頻度
長崎地域医療連携ネットワークシステム協議会 総会 正会員
特別会員
運営に関する重要事項の議決 年1回
理事会 理事 長崎地域医療連携ネットワークシステム協議会の運営全体の監督、運営委員会の協議、決定事項の承認 不定期
運営委員会 理事 日常的運営の検討
(長崎市、県央、佐世保、3カ所の地域部会に分かれて実施)
検討時は月2回、現在は月1回
あじさいネット事務局 長崎県医師会内兼任2名 あじさいネットの問い合わせ対応、入退会処理 常設
その他 あじさいネット拡充プロジェクト室 室員5、6名 あじさいネットの機能改善や機能追加の企画、広報、新規会員の登録作業 常設

※事務局・・・NPO法人からの派遣(2名)を含めて6名
(1名室長(医師)、5名専任)

あじさいネット定款、長崎地域医療連携ネットワークシステム協議会提供資料より作成
(2) 地方公共団体の関与

あじさいネットは医療関係者が中心となって構築したため、運用開始からの5年間は、地方公共団体による財政支援などを受けていない。あじさいネットでは、医療情報連携ネットワークの構築後に継続的な運営が可能となるよう、運用費を補助金に頼ることなく、参加機関からの会費で賄える仕組みを検討当初から目指していた。ただし平成21年度、全国で展開した地域医療再生事業において長崎県があじさいネットを事業展開における重要な組織と位置付け、基金を使ってその実働機関としてのあじさいネット拡充プロジェクト室を設置し、施設参加増への支援と、従来機能の改善および新規機能の展開を支援している。しかしながら現在もなお、最も重要な機能である診療情報の共有についての運用経費は会費のみで賄っている。

5.個人情報保護方針などの作成

あじさいネットを検討していた当時、モデルとなる医療情報連携ネットワークシステムはほとんど存在しなかった。そこで、厚生労働省がエイズ患者の治療のため診療情報をエイズ治療・研究開発センター、エイズ治療ブロック拠点病院、拠点病院間で安全に共有するネットワークとして構築した「HIV診療支援ネットワークシステム(以下、A-net)」(平成12年稼働開始)を参考にした。運用ポリシーや個人情報に対する方針、同意取得方法、定款、システムの技術要件・運用要件、セキュリティ対策などの運用を検討する際のモデルとした。

あじさいネットではインターネットで診療情報が閲覧できるため、運用上のセキュリティ確保を重視した。システムセキュリティを講じても利用者による個人情報管理がなければ安全は確保できない。このため、参加機関の利用者が遵守すべき個人情報保護のための運用ルールを設け、入会時に受講を義務付けている運用講習会においてルールの周知をするようにしている。

図表:利用細則に定めている主な個人情報保護のためのルール
ルール 内容
利用者の制限
  • ・ID、パスワード発行は個人単位
  • ・ID、パスワードの貸し借りは厳禁
パスワードの更新
  • ・90日以内に更新
  • ・更新しない場合は、自動でアクセス権失効
ログアウトの徹底
  • ・閲覧終了後は迅速にログアウト
アクセス権の失効
  • ・13ヵ月閲覧がない場合、自動でアクセス権失効
診療情報再利用の禁止
  • ・閲覧情報の端末への保存禁止
  • ・印刷利用禁止(患者が希望する場合は開示施設に依頼するよう患者に説明する)
不正利用時の対応
  • ・悪質な不正利用が確認された場合は運営委員会にて協議の上、利用者権限を剥脱。再登録禁止
出所:あじさいネットHP、運用講習会資料より作成

6.ガイドライン・標準化規格などの確認

(1) ガイドラインの確認

以下のガイドラインを確認し、システム構築や運用の検討を行った。

図表:構築時に確認したガイドライン一覧
# 文書名称
1 厚生労働省 「医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイドライン」
出所:長崎地域医療連携ネットワークシステム協議会インタビュー内容より作成
図表:平成17年以降に確認したガイドライン一覧
# 文書名称
1 厚生労働省 「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン」
2 経済産業省 「医療情報を受託管理する情報処理事業者向けガイドライン」
3 総務省 「ASP・SaaSにおける情報セキュリティ対策ガイドライン
出所:長崎地域医療連携ネットワークシステム協議会インタビュー内容より作成
(2) 標準規格の採用

標準規格を確認したうえで、採用する規格を検討した。

図表:採用した規格一覧
規格採用範囲 規格内容
患者ID管理 独自
連携データの共有方法 独自
利用者認証 ID&PW
連携データの保存形式 SS-MIX & SS-MIX2 & 独自
コードマスター
・病名 独自 & MEDIS病名マスター
・処方 独自
・検査 臨床検査マスター(HS014) 
・画像 DICOM
出所:長崎地域医療連携ネットワークシステム協議会資料より作成

7.システム化方針決定

診療所医師に対するアンケートなどにより、ICTによる病院の診療情報の閲覧に潜在的なニーズがあることは確認していた。一方、当時、電子カルテの共有の取組みの多くは休止していた。

地域医療連携IT化検討委員会で分析、検討した結果、電子カルテの共有が実証実験に終始してしまい運用ニーズを捉えていないことや、医療従事者間の協力体制が不十分で地域全体の取組みとなっていないことに加えて、診療所側のデータ入力負荷が大きいこと、初期費用が高く維持費用が出せないこと、が原因と整理した。

そこで、原則、診療所でデータ入力することなく、病院の電子カルテを診療所が閲覧する一方向通信の仕組みを主機能とすることにした。

なお、当初から複数の病院が利用できることを前提にシステムを構築した。開示時施設を1つに限定してシステムを構築してしまうと、他の病院が開示施設として参加できなくなり、医療情報連携ネットワークの構築が逆に最適な紹介先が限定され(囲い込みネットワーク)、理想的な紹介逆紹介の活性化に逆行するからである。

また、システム構築費用が高くなると運用費用や更新費用が負担となり、継続運用に支障が生じる。そこで、データを保管するサーバを地域に保有しないこと、IPsec+IKEを利用したオンデマンドVPNにより病院のゲートウェイサーバ(閲覧施設からの開示要求に応じて開示用のデータを表示登録するための仕組み)にアクセスする仕組みを採用することにした。

運用開始当初の仕組みは国立病院機構長崎医療センターの電子カルテ(富士通社製)に対し、DMZ領域に設置したFireWallと兼用の仮想端末サーバを置き、Citrix社の仮想端末技術(metaflame)を使って診療所から仮想端末を起動させ利用する仕組みとした。この仕組みだと閲覧施設も病院と全く同じ画面、同じ機能(参照のみ)を利用できるので、操作方法がわからない時があっても、病院の医師であれば誰でも使い方を教えることができるというメリットも生んだ。

セキュリティ対策としてはhardware型の VPN機器を病院側、診療所側の両者に設置し、IPsec+IKE VPN上のみでの通信とした。閲覧施設側のウイルス対策は遠隔監視が可能なウイルス管理サーバを導入し、全閲覧施設に共通のウイルスソフトをインストールした。

このため費用は仮想サーバ、VPN機器、VPNネットワーク設計費、ウイルス管理サーバ、保守費として合計で約2,000万での構築が可能だった。当時1地域でネットワーク構築に2億円程度が必要とされていたので、1/10の費用で構築したことになる。このうち20%を国立病院機構長崎医療センターが負担し、大村市医師会と離島医療圏組合が団体入会にてそれぞれ10%を負担、運用初年度の会費収入で20%、残りをすでに運用組織として立ち上げていたあじさいネット(長崎地域連携ネットワークシステム協議会)の借入にて調達した。なお、この借入は900万であるが、その後の見込みどおり参加機関が増えたたため5年目で完済している。

一方、2年目に開示施設として参加した市立大村市民病院は日本電気株式会社の病院情報システムを採用していたため株式会社エスイーシーのID-Linkを採用した。

その後4年間の開示施設は国立病院機構長崎医療センターと市立大村市民病院だけであったが、長崎市医師会が平成21年に参加し、平成21年4月から長崎大学病院(電子カルテは日本電気株式会社社)、光晴会病院(電子カルテは日本電気株式会社)、十善会病院(電子カルテは富士通社)が運用を開始し、その後も年度内に6病院のサービスインが予定されていた。各病院のカルテを利用する上で、それぞれのシステムへログインする必要があり、この手間が課題となった。このため一回のログインで全てのシステムを利用できるSSO(シングルサインオン)システムの導入が必要となり、検討を行った。

また、ID-Link(株式会社エスイーシー、日本電気株式会社)が複数の病院を時系列に同時表示できるのに対し、当時の富士通社の地域連携システム(HOPE地域連携)は一つの病院のみしか表示できなかったため、ID-Linkのように複数病院を表示できないかとの要望が多く寄せられたことから、富士通社が複数病院を同時表示できる現在のHumanBridgeの開発を決定した。

ちょうどこの年から地域医療再生基金の募集があり初めて補助金を利用することになるが、この基金を使って現在採用しているポータルサイトとしてのSSOの構築、HumanBridgeの開発と導入、および各病院との接続費用等に使用した。なお、いずれも構築、接続後、当面の利用経費も含んでいたが、その後はすべて協議会および各閲覧施設が負担している。平成24年にはID-Link(株式会社エスイーシー、日本電気株式会社)とHumanBridge(富士通株式会社)両者の一画面表示が希望され、現在、設定すれば検査データおよび処方、注射については一画面表示が可能である。

8.事業計画・収支計画立案

(1) 構築費用

構築費用が高くなると運用費用や更新費用が負担となり、継続運用に支障が生じる。そこで、検討当初から自主財源で構築、会費で運用することを想定してシステムを構築した。

あじさいネットの構築費用は約2,000万円である。そのうち900万円は大村市医師会の借入で調達した。アンケートにより大村市の会員の約半数に相当する31の閲覧施設が稼働開始後に入会する見通しが立っていたため、借入金の返済は可能であった。

(2) 構築費用の負担配分

構築費用の負担者は、長崎地域医療連携ネットワークシステム協議会(会費)、大村市医師会、独立行政法人国立病院機構長崎医療センター(運用開始時の開示施設)である。負担配分は、検討主体であった地域医療連携IT化検討委員会で決めた。

なお、平成21年以降、開示施設においてはデータ出力対応費として中継サーバと自院の電子カルテを接続するためのゲートウェイサーバの設置等の初期費用が発生する。長崎県は、医療計画にあじさいネットを活用した地域医療連携の充実を盛り込んでおり、地域医療再生基金や地域医療介護総合確保基金により開示施設の初期費用を半額補助した。(平成29年度までは継続予定)

(3) 運用費用

あじさいネットの特徴は開示施設の情報開示費用経費およびVPNネットワークの利用費も含め開示施設が負担し、情報閲覧施設はあじさいネットへ参加するためのVPN機器の初期費用と保守費用(月2,600円)と事務費(月1,400円)およびウイルス対策費(年3,000円)を負担する仕組みであるため、事務局に大きな運営費が発生しない仕組みである。しかしながら全ユーザーのメリットとなる、あじさいネットホームページやあじさいネットML利用費用(月1万円)、ポータルサイト利用料(月10万円)、広報誌発行費(年4回、40万円)および通信費や会議費等の事務関連費、このような費用を全て会費の中で賄っている。

なお、あじさいネットの機能追加・拡充については地域医療再生基金や地域医療介護総合確保基金を活用している。

(4) 運用費用の負担配分の決定方法

会費による自主運用である。運用費用の負担配分については、医師会内のアンケート結果に基づき運営委員会で検討し、理事会・総会で承認している。

(5) 利用料金

1) 開示施設の場合

初期費用として、ゲートウェイサーバの導入が必要である。入会金は無料としている。入会後は会費のほかデータを保管するプライベートクラウドの使用料とネットワーク機器・保守料を負担する。

図表:利用料金(開示施設)
費目 金額
導入費用 ゲートウェイサーバ導入費 500万円~1,400万円
入会金 無料
入会後 会費(月) 5,000円
プライベートクラウド使用料(月) 50,000円
ネットワーク機器・保守
(IP VPN)(月)
18,000円
出所:あじさいネットHPおよび長崎県におけるITを使った医療連携~あじさいネット見学資料~より作成

2) 閲覧施設の場合

入会時の入会金、初期費用(暗号化機器の設置、設定、システムの運用保守セキュリティ管理)が必要である。入会後は会費とウイルス対策費(年1回)を負担する。会費は各閲覧施設内の会員数と会員種別によるが、会員数1~4人の場合、正会員1名あたり月4,000円(レセプトオンライン請求込の場合は月5,000円)で、年一括払いである。準会員やポータル会員は総会議決権がなく、ポータル会員は利用できる機能が一つに制限されている。

図表:利用料金(閲覧施設)
費目 金額
導入費用 入会金 50,000円
初期費用 30,000円
入会後 会費(月)
※会員数と会員種別による
4,000円
(会員数1~4人、正会員)
会費(月)
※会員数と会員種別による
※レセプトオンライン請求込の場合
5,000円
(会員数1~4人、正会員)
ウイルス対策費用(年) 3,000円
出所:あじさいネットHPおよび長崎県におけるITを使った医療連携~あじさいネット見学資料~より作成

※入会金については、団体入会制度(200万円)があり医師会単位の団体入会を勧めている。団体入会すれば会費は無料であり、すでに入会後であれば所属団体が団体入会した時点で入会金は返金している。

図表:会費内訳
内訳 正会員 準会員 ポータル会員
会費(会員数による) 1~4人 3,000円 1,000円 200円
5~9人 15,000円 5,000円 1,000円
10人以上 30,000円 10,000円 2,000円
システム費 1,000円 1,000円 1,000円

※会費は一人あたりの月額。システム費についてはVPN機器あたりの月額

出所:あじさいネットHPおよび長崎県におけるITを使った医療連携~あじさいネット見学資料~より作成
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